サッカーのテレビ中継を見ていると、ゴールが決まったのに試合が止まる場面があります。
「今の、どうなったの?」
「なんで取り消されたの?」
思わず首をかしげた経験、ありませんか。
あの場面で登場する「VAR(ブイエーアール)」という言葉、実はルールを知るととても面白い仕組みです。
この記事では、VARの意味・仕組み・介入する4つの条件を、サッカーを見はじめたばかりの方にも分かるよう整理しました。
お子さんと一緒に観戦するとき、「あ、VARだ」と説明できるようになれば幸いです。
VARとは「映像で主審を助ける審判」のこと
VARとは、映像を使って主審を手助けする審判のことです。
VARは「Video Assistant Referee(ビデオ・アシスタント・レフェリー)」の頭文字をとった言葉で、「ビデオで助ける審判」と訳せます。
なぜこのような仕組みが必要なのでしょうか。
理由は、人の目だけでは見きれない場面があるからです。
サッカーは広いグラウンドで選手が走り回り、ボールも非常に速く動きます。主審は1人、ラインを確認する副審が2人いますが、すべての瞬間を完璧に見るのは難しいのが現実です。
そこで、別の部屋から何台ものカメラ映像を確認する専門の審判を置き、主審をサポートする仕組みが生まれました。
「主審の目を増やす仕組み」と考えると分かりやすいです。
VARが誕生した背景
VARの開発はオランダサッカー協会(KNVB)が中心となって進め、試験運用を経て、2018年3月に国際サッカー評議会(IFAB)が正式導入を承認しました。
同年開催された2018年FIFAワールドカップ・ロシア大会が、ワールドカップとして初めてVARを全試合・全会場で使用した大会となりました。
日本では2021年からJ1リーグ全試合にVARが本格導入されています。
VARは「主審の代わり」ではありません
ここで大切な誤解を一つ解いておきます。
VARは主審の代わりではありません。
最終的に判定を下すのは、あくまでグラウンドにいる主審です。
国際的なルールでは、VARは「最小限の干渉で最大の効果をもたらす」ことを原則としています。
何でもかんでも口を出すのではなく、必要なときだけ助けるという考え方です。
VARが介入できるのは「はっきりとした明白な間違い」があった場合のみ。
たとえば、ファウルかどうか意見が分かれるような接触プレーがあったとします。主審がファウルを取らなかった場合、それが「誰が見ても明らかな見落とし」と言えるほどでなければ、VARは介入しません。
このため、「VARが入ればすべての判定が完全に正しくなる」とは言い切れません。
ロシアW杯での運用報告では、「VARの導入によって判定精度が約95%から99%前後に向上した」という発表がありましたが、数値は集計方法や大会によって差があります。
大きく向上したことは確かですが、VARはあくまで「主審を助ける道具」です。
人の判断が残ることを理解しておくと、判定への見方がぐっとフラットになります。
VARが使われるのは「4つの場面」だけ
VARはいつでも使えるわけではありません。
VARが関われるのは、次の4つの場面に限定されています。
- ゴールが入ったかどうか
- PK(ペナルティーキック)かどうか
- 一発退場(レッドカード)かどうか
- 警告・退場で選手を取りちがえていないか
なぜ4つに絞られているのか。
理由は、試合の結果を大きく左右する重大な場面にしぼることで、「最小限の介入で最大の効果」を実現するためです。
すべてのプレーを確認していたら試合が何度も止まってしまい、サッカーとして成り立ちません。
それぞれをかみ砕いて説明します。
①ゴールが入ったかどうか
ゴールが決まったとき、その直前に反則がなかったかを確認します。
たとえば、得点の前にオフサイドがあった、ハンドがあった、ファウルがあった、といった場合にVARが介入します。
逆に、ゴールが認められなかった場面で「実はゴールだった」という場合も対象です。
具体例: 2018年ロシアW杯のフランス対オーストラリア戦。フランスのグリーズマンがペナルティーエリア内で倒された際、主審はファウルを見逃しましたが、VARが介入してPKが与えられました。グリーズマンがこれを決め、フランスの勝利につながっています。
②PK(ペナルティーキック)かどうか
ペナルティーエリアの内側で反則があったかどうかを確認します。
エリアの内側か外側かで、PKになるか通常のフリーキックになるかが大きく変わります。
数十センチの差が試合の勝敗を分けることもあるため、特に注意して見られる場面です。
③一発退場(レッドカード)かどうか
退場処分が正しかったかどうかを確認します。
ただし、対象は「いきなりのレッドカード(一発退場)」のみです。
イエローカード2枚による退場はVARの対象に含まれません。
これは意外と知られていないポイントです。
④選手の取りちがえ
主審が警告や退場の相手をまちがえた場合に、正しい選手を確認します。
カードを出す判断自体は正しくても、出す相手がちがっていれば対象になります。
逆にいうと、これら以外にはVARは関わりません。
試合中の細かいファウルや、イエローカード1枚かどうかの判断にVARは介入しないのが原則です。
これを知っておくと、「なんでVARが動かないの?」というモヤモヤが減ります。
VARが判定を見直す「流れ」を知ろう
実際の試合でVARはどのように動くのでしょうか。
流れは「チェック → 必要なら主審に提案 → 主審が最終判断」の3ステップです。
ステップ1:サイレントチェック
得点やPKなどの場面が起きると、VARはすぐに映像をチェックし始めます。
このとき試合が止まるとは限らず、プレーが続いていることもあります。
問題がなければ「チェック完了」と主審に伝えて終わり。
これは「サイレントチェック」と呼ばれ、視聴者が気づかないうちに終わっていることがほとんどです。
ドイツ・ブンデスリーガの調査では、VARによるレビューの70%以上がサイレントチェックで、実際に判定が変わるのは全チェックのうち10%以下とされています。
ステップ2:主審へのレビュー提案
「明らかな間違いかもしれない」と判断した場合、VARは主審にレビュー(見直し)を提案します。
このとき、主審が両手で四角いテレビの形を空中に描くしぐさをします。
あれが「これから判定を見直します」というサインです。
見たことがある方も多いのではないでしょうか。
ステップ3:見直しの2つの方法
見直し方法は大きく2つあります。
ひとつは、主審がグラウンドの横にあるモニターに自分で歩いて行き、映像を直接確認する方法。OFR(オンフィールドレビュー)と呼ばれます。
もうひとつは、主審がモニターを見ずに、VARから伝えられた情報だけで判断する方法です。オフサイドのように「超えたか・超えていないか」がデータで明確に示せる場面で使われやすいです。
いずれの場合も、最後に判定を決めるのは主審です。
オフサイド判定を助ける「半自動オフサイド技術」とは
近年、VARをさらに進化させた技術が登場しています。
半自動オフサイド技術(SAOT:Semi-Automated Offside Technology)です。
2022年のワールドカップ・カタール大会から大きな大会で本格的に使われるようになりました。
仕組みをかんたんに説明すると、次のようになります。
- スタジアムの天井に12台の専用カメラを設置
- 選手1人につき最大29か所の体の部位を毎秒50回追跡
- 公式ボールの内部にセンサーを内蔵し、蹴られた瞬間を1秒間に500回送信
- このデータをAIが処理してオフサイドを自動で検知
これによって、これまで数分かかっていたオフサイド確認がわずか数秒で完了するようになりました。
スタジアムの大画面やテレビ中継で、選手の体のラインを3Dアニメで表示する場面を見たことがある方もいると思います。あれがSAOTのデータを使った可視化です。
ただし、こうした技術はすべての試合・すべてのリーグで使えるわけではありません。
カメラの台数や設備はリーグや大会によって大きく異なります。
「どの試合でも同じ精度で判定される」とは言い切れない点は、あわせて知っておくとよいでしょう。
子どもの試合にVARはありません【保護者の方へ】
ここで、ジュニアサッカーに関わる保護者の方に向けて一つ補足します。
お子さんが出場する少年団やクラブの試合に、VARは基本的にありません。
VARを使うには専用のカメラ設備、ビデオオペレーションルーム、IFABの承認を受けた運用体制が必要です。
実は日本でも、J2・J3リーグには現時点でVARがまだ導入されていません。
プロのリーグでさえそうした状況ですから、少年サッカーに導入されないのは当然のことです。
こんな場面を想像してみてください。
子どもの試合で「今のはオフサイドでは?」と感じる場面があったとします。でも判定はその場の審判の目のみで進んでいきます。
保護者の方がモヤモヤするのはよく分かります。
ただ、サッカーの草の根の試合では「審判の判断を尊重して試合を進める」ことが基本です。
テレビでVARを知っておくと、お子さんへのこんな言葉が出てきます。
「プロの試合でもVARで何度も確認するくらい難しい判断なんだよ。審判さんも一生懸命見てくれてるんだよね」
判定にモヤモヤする気持ちを、審判への感謝や理解につなげるきっかけになるかもしれません。
まとめ:VARを知ると、観戦がもっと分かるようになる
この記事のポイントをまとめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| VARとは | 映像で主審を助ける審判のこと |
| 役割 | サポート役。最終判断は主審 |
| 介入する場面 | ゴール・PK・一発退場・選手の取りちがえ(4つのみ) |
| 流れ | チェック → 提案 → 主審が最終判断 |
| 最新技術 | 半自動オフサイド技術(SAOT)が大きな大会で導入済み |
| 子どもの試合 | VARは基本的にない(J2・J3でも未導入) |
VARは「すべてを正しくする魔法」ではなく、「明らかな間違いを減らすための仕組み」です。
この前提を知っておくだけで、試合が止まったときのモヤモヤがずいぶん減ります。
次にテレビでVARの場面が出てきたら、「今は4つのうちのどれを確認しているんだろう」と考えてみてください。
きっと、観戦がもう一段楽しくなるはずです。
